森達也 / クォン・デ もう一人のラストエンペラー


購入場所:新宿の露天

フランス植民地支配からの独立を目指し1905年日本に密航、時代に翻弄され続けたベトナム阮朝の王族クォン・デの半生を描いたドキュメンタリー本。西欧植民地政策からの祖国独立を目指したアジア革命家(孫文など)が日本に集っていた当時の様子や、その受け皿となっていた犬養毅玄洋社頭山満といった「大アジア主義」運動の挫折っぷりなどを背景に、革命家としてはあまりにボンボンな「無能の人」クォン・デの周囲に翻弄されるだけの人生が悲しい。日々の日本での勉強も身に入らず、軍部の大陸進出を「覇道を歩んでしまった」と嘆く犬養毅に「覇道って何ですか?」とKYな質問をしてマジ切れされる場面など我が身につまされさえする・・・。結局ベトナム独立には1ミリの役にもたたぬまま、帰国すらできず1951年に杉並区の片隅で没。かつては救国の英雄と期待されたクォン・デも今では日本でもベトナムでも忘れさられた存在。まさにリアル「役立たずの彼方に」!ところでこの本、何が衝撃だったってあの新宿の中村屋が前述の「大アジア主義」運動の温床となっていた事実。そもそも「日本初のインド・カレー」は当時のインド独立運動ラス・ビハリ・ボースとの交流(ボースは中村屋の婿養子にまでなる)から生まれたものだし、月餅に至っては孫文との交流で開発されたらしいし。また政治のみならず芸術家育成にも注力、当時の客人だった荻原碌山との愛憎劇はドラマにもなったとか(未見)。侮りがたしは中村屋なり。まあ個人的に中村屋の思い出といえば、かなり以前新宿で働いてた時分、偶然中原昌也氏とメシを食おうって入ったのが中村屋。カレーだから大して値段しないだろう・・・とタカをくくっていたのに2千円以上もして(しかも中原氏がそれを悠然とオーダーしてるのを見て)ビビった記憶しかないのが泣ける。